« さらに光の当たらない話 | トップページ | 素晴らしい音楽の恐ろしさ »

犬の世界

・古川日出男 『ベルカ、吠えないのか?』(文芸春秋、2005)

人に薦められたので読んでみた。本書は、帯にも記されているように、「イヌによる現代史」となっている。

第二次大戦時の軍用犬に端を発する犬たちの系譜が紡がれながら、朝鮮戦争、米ソ冷戦、ベトナム戦争、アフガニスタン侵攻など、20世紀後半の戦争の世界史が叙述されている。たいへんスケールの大きい物語だ。

 「ついにイヌが、死を宿命づけられていない宇宙飛行を、成功させた。与圧服を着用した雄犬と、雌犬が。宙から地球を見下ろして、ふたたび地上に帰った。イヌ族の生誕した大地に。それは二頭の、ソ連籍のイヌだった。それぞれの名前は、雄犬がベルカで、雌犬がストレルカだった。
 「ベルカとストレルカだった。」(164ページ)

このように、息もつかせぬ畳み掛けるような文章のリズムも相俟って、一息に読んでしまった。

そして、犬が主人公だとはいえ、犬の視点から人間世界を皮肉るわけではないところが、本書の魅力だと思われる。犬の視点で人間世界が描かれながらも、それは徹頭徹尾、犬の物語となっているのだ。つまり、犬たち自身の考えや思い、生存への欲求が描き出されているのである。この点で、本書にはまるで説教臭いところがなく、私はエンターテイメントとして存分に楽しんだ。

ところで、動物の目から書かれている物語としては、朝鮮系ロシア人アナートリイ・キムの『リス』が思い浮かぶ(有賀祐子訳、群像社、2000)。情けないことにすっかり積読となっているが、本書も近いうちに繙きたいものである。

|

« さらに光の当たらない話 | トップページ | 素晴らしい音楽の恐ろしさ »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 犬の世界:

« さらに光の当たらない話 | トップページ | 素晴らしい音楽の恐ろしさ »