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呪われた作家たち3

 「フランスのファシズムは政治的イデオロギーではなかった。[]フランスのファシズムとはひとつの精神なのだ。[…]これは友愛の精神だ。わたしたちはこの精神を、すべてのフランス国民を結びつける友愛の精神にまで高めたいと願ったのだった」(ロベール・ブラジヤック『われらの戦前/フレーヌ獄中の手記』高井道夫訳、国書刊行会。対独協力作家と言えば必ず名の挙がるブラジヤックは、召集を受けて前線に赴くが、ドイツの捕虜収容所に捕えられていた1939年から40年にこう書き記した。

 1909
年、ペルピニャンに生まれたブラジヤックは、高等師範学校在学中の1930年、『ルヴュ・フランセーズ』に文芸評論を発表して以降30年代を通じて、『アクシオン・フランセーズ』の文芸欄を担当し、『映画史』『コルネイユ』などの評論のほか、『時の移ろうまま』などの小説を著わす。要するに、彼は高い教養を備えた作家だった。

 そんな彼の代表作『七彩』は、
1930年代のパリを舞台にした物語。青年パトリスと少女カトリーヌが惹かれ合いながらも離れ、青年はフランスを去り、少女はやがて別の男と結婚する。しかし互いに相手のことを忘れられず、10年後に再会すると悲劇が襲うことになる……。「物語」「手紙」「日記」など七つの文体を使い分ける趣向を凝らして話は進み、当時の西欧の政治状況も詳細に語られるので、30年代の若者の生活にかんする一つの資料としても読むことができる。フランス文学の伝統ともいえる心理分析とともに、パリの公園や街並みが美しく描写される本書は、とても瑞々しい恋愛物語である。

 ブラジヤックの描く青春は麗しい。しかし、その青春はあくまでも、異質な要素を排除することで成り立つ、純潔で純血めいた理想でもあった。反ユダヤ主義は戦前、種々の形でフランスに広く存在していたとはいえ、ブラジヤックはすでに「フランス人は生まれつきユダヤ人が嫌いだ」などと強い反ユダヤ主義を表明していた。

 そして彼は、遅れてきた世代として自己規定する。「
僕らの時代の30歳は戦争と未来の狭間で押しつぶされているため、独得のカラーを持っている。たぶん、将来、人々はこの歳がすこぶる伝統的な均衡を失っていたことや、またその特有の不安のせいで18歳に似通っていたことに驚くだろう。先の戦争は現代世界にとって熾烈な激動の時であったため、たとえ僅かでも戦前を生きた人ならば、その衝撃がいつまでも消え去らないのかもしれない。その後に生まれた人にはもっと自信がある」(ロベール・ブラジヤック『七彩』池部雅英訳、国書刊行会。このように『七彩』は、ブラジヤックが、文筆家であるには最初から否応なしに政治的にならざるをえなかった世代の作家であることを示している。

 ブラジヤックにとって、ファシズムは生きる歓びの具現にほかならず、
俗物から切り離され、同士愛に支えられた青春を取り戻そうとする衝動だった。彼は共和政を拒絶し、イタリアとスペインのファシズム勢力に好意を示していたが、彼からすれば、言わばファシズムそれ自体が雄々しくも感傷的な運動なのだ。それゆえに彼は、青春の自由を圧殺する戦争に反対していたのである。彼のファシズムは、共同体創設を大衆の祭典に仕立てるような政治の審美化ですらなく、ホモソーシャルでボヘミアン的生活を共にする友愛の美学のなかでのみ捉えられる政治的感情だった。

 このファシズムに基づいて、ブラジヤックは対独協力にはしる。
1941年春に虜囚を解かれるや、戦前からファシズムを鮮明に打ち出していた「ジュ・スィ・パルトゥ」紙の編集長となり、「私はつまるところ[…]友人たちを後にしてきた。彼らはけっして私から別れないし、その思い出は爾来、自由の身となった私からいっときも離れることなく私に重なっている。[…]私は彼らに向けて書こうと思う」と述べてRobert Brasillach, Oeuvres complètes, tome XII, Le club de l’honnête homme、捕虜のままの戦友たちへの同士愛から「尊厳ある対独協力」を訴え、開戦しながら敗北した第三共和政を呪いつつ、その崩壊を言祝ぐことになるのだ。

 彼は、西欧文明を守り祖国を再建させるべく、戦前からの主張を次第に激化させ、ユダヤ、共和主義、ド・ゴール派、共産主義、アングロ・サクソンの各勢力に対し、そしてときにはヴィシー政権の無気力に対してまで、筆鋒鋭い論説を発表し続ける。大戦末期には対独協力に幻滅し
43年にはもはやドイツの勝利を謳うことはなくなるものの、彼は自らの選択を最期まで後悔しなかった。福田和也は「なによりもかれにとって耐えがたい公衆の沈黙と退廃、待機主義と敗北主義を打ち払って、澄んだ空気を呼吸しようとしたのである」と記しているが(福田和也『奇妙な廃墟』ちくま学芸文庫)、ブラジヤックの儚く詩的で無責任な青春のファシズムは、おぞましい歴史的現実に力を貸したのだった。

 ブラジヤックは、おのれの美学のもたらした政治的帰結を引き受けたかに見える。彼は、対独協力者に対する裁判において死刑の判決を受け、粛々と処刑されたからだ。だが彼は、自らの発言の結果を本当に引き受けたのだろうか。

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