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呪われた作家たち7

 194110月、フランスの出版物の検閲官ゲルハルト・ヘラーは、ワイマールで催される第1回ヨーロッパ作家会議に、フランスの作家たちを引率して行った。参加者は、「ジュ・スィ・パルトゥ」編集長ロベール・ブラジヤック、『新フランス評論(NRF)』編集長ピエール・ドリュ・ラ・ロシェル、グラッセ社のアンドレ・フレニョーのほかに、フランソワ・モーリヤックの友人でありながらフランス人民党の政治局員でNRFの批評家だったラモン・フェルナンデス、アカデミー会員で、42年からピエール・ラヴァル内閣で国民教育相を務め、反ボルシェヴィキ義勇軍団(41年夏以降ロシア戦線で戦うフランスの有志たちの軍団で、ドイツの軍服に身を包んでいた)と民兵隊(Milice)を支持することになるアベル・ボナール、そして、ジャック・シャルドンヌとマルセル・ジュアンドーである。

 このうち、ジュアンドーとボナールは、当初予定されていたマルセル・アルランとポール・モランの代わりに参加した。このような会議は文学に限らず、美術や音楽、映画についても同種の会合がほぼ同時期にドイツ領内で開かれ、たとえばリュシアン・ルバテなどは、ウィーンで催された「モーツァルト祭」に出席している。


 ところで、この顔触れを見ると、ブラジヤックやドリュのように明確にファシズムを選んでいた作家に加えて、さほど政治的とは思われていない作家も招かれたことがわかる。ジュアンドーは、反ユダヤ主義者だったがファシストではなかったし、そもそもこの旅行への参加を渋っていた。シャルドンヌにいたっては、それまで政治的な事柄に無縁と思われていたにもかかわらず、ドイツによる占領が始まるや政治的発言を繰り返して、物議を醸した作家である。


 彼らにこの旅行への参加を促したヘラーは、「フランス文化の発展を助長し、ドイツ文化と他のヨーロッパ諸国の文化との出合いの場を広げよう」という意図を抱いていた(
ゲルハルト・ヘラー『占領下のパリ文化人』大久保敏彦訳、白水社。シャルドンヌ、ジュアンドー、フェルナンデスの3人は、ヘラーに引き連れられて、会議の前にハイデルベルクやウィーンなどドイツ領内を周遊し、ゲッペルスをベルリンに訪ねた。他の4名は後発組として直接ワイマール入りし、帰途ベルリンに立ち寄り、そこでドイツのために働くフランス人労働者たちや彫刻家アルノ・ブレーカーを訪問している。

 「来るべきヨーロッパにおける文学」がテーマとなったこの会議には、枢軸国やドイツの占領国、および中立国も含めて
14カ国から、総勢31人の作家が集い、なかにはフィンランドを代表する詩人ヴェイッコ・アンテロ・コスケンニエミの姿も見られた。会議は、ヨーロッパ文明を共産主義からいかに守るかという開会の辞で始まった。参加者はその後ゲーテの家を訪ね、ドイツの作家ハンス・カロッサを長とするヨーロッパ作家連合が発足して数日間の会議は幕を閉じた。

 会議を通じて、フランスからの参加者の多くは、今やフランスではなくドイツがヨーロッパ文化を担う可能性をもつという事態に忸怩たるものを感じながらも、ドイツによる「新秩序」に感銘を受けたのだった。


 そしてこの旅行はたちまち、作家の対独協力のシンボルと見なされるようになる。事実、彼らは帰国後、相次いでワイマール旅行について文章を発表し、ヘラーの友好的な回想とは裏腹に、「フランスは、臆病な待機主義と手を切って、たとえ自国の労働者を提供するだけにせよ、ドイツが対ボルシェヴィスム十字軍において身を削っている素晴らしき行為に参加すべきだ」という、ナチスの代弁者のごとき主張を繰り広げるのだった(
François Dufay, Le voyage d’automne, Plon

 こうして、
44年秋には、ポール・エリュアールによって、この旅行に参加した作家全員(ただしフェルナンデスはその年の夏に死去)の逮捕が要求されることになる。しかも、後発組がパリに戻った際の報道写真そのものが、対独協力の象徴としてしばしば複製されることになった。

 ワイマールに赴いた作家たちが、この旅行がもつであろう意味を出発前に予想できなかったとは考えにくい。確かに、会議に参加することで、彼らの作品はドイツ語に訳されて出版されることになっていたし、収容所に捉えられているフランス人の釈放という交換条件がちらつかされた可能性もある。だがそれにしても、後年のヘラーの言葉を借りれば、「当時としては重大な政治的過失」であるにもかかわらず、シャルドンヌやドリュ、フレニョーは、アンドレ・テリーヴとジョルジュ・ブロンとともに、
42年に開かれた第2回ヨーロッパ作家会議にも参加する道を選んだのだった。

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